★海苔を実際に見てみよう★



トランスが流行る、バスドラドンドン!ハイハットシャカシャカ!
ダンスビートが流行る
そんな時代に海苔はみんなきっと好きだし、海苔がちゃんと出来ると
なんだかプロになった気分になれるのは自分だけでしょうか?

そもそも海苔ってなんなのか?
上記で紹介した波形がリアルタイム表示される便利リミッターの
GClipで流れてくる波形が、コンプがかかり圧縮された結果
完全な長方形になってGClipの右側から製造されてきます
この形が太巻きに使われる一枚の【海苔】のようだからです。
(海苔波形、海苔と呼びます)

これは少なからず音質を犠牲にしますので本当は良い状態とは言えないのですが、デジタルの世界では0dbより
上に行ってしまった音はビリッ!バリッというノイズになってしまいます
カセットテープなどのアナログメディアの場合はデジタルとは違い
グォーンと歪んで録音されてしまいます
試しにカセットデッキのマイク端子にiPhoneなどを繋いで大音量で音楽を録音してみてください
録音側がMP3レコーダーなどのデジタル機器の場合はビリッ!ビリッ!という
耳に痛いノイズが入りますが、カセットテープに録音された音量オーバーの音は
ブーン…グォーン…という感じでなんだか温もりも感じます
このグォーン…の歪みはエレキギターとの愛称が時として良く
アナログの歪み音を再現したサチュレータというvstでわざと作る事もあります

デジタル機器を使わないDTMなんてありませんから当然
ビリッ!バリッ!とはいずれ闘うことになります
ボーカルを合わせたときなぜかこのパートの出だしにプチッと音が聞こえる
このレベルオーバーをさせない為には単純に0dbを越えなければいいんです

ですがただ越えないように各トラックの音量を下げたら音は小さくなるし
ミックスバランスも変になるし、他の曲と比べて迫力も全然足りない
誰かが悩んだ末に編み出したこのすべてを兼ね備えた物が【海苔】だったのです

よく耳にする「音圧」という言葉
これは音の大きさという意味もありますが、音楽を波形で表したとき
音を大きくする過程で「波形の中心部分の太さ」を表現した概念でもあります


海苔は一体誰が作り始めたのか?
諸説いろいろありますがネットではラジオ局が使っていた専用のアナログリミッターで
音楽を放送する時だけ音量を上げていた、とのこと
他には1999年頃からインパクト欲しさに音量を重視してシングルCDに収録をした、など
書かれています
僕も実際1999年後期から2000年入った時が海苔の始まりだと思います
(音圧戦争とも言います)


しかし、実は僕は決定的な海苔の始まりを知っているんです
1996年11月21日発売のTWO-MIXのアルバム【BPM 150 MAX】

TWO-MIXは僕がDTMに興味を持ったアーティストです
このアルバムの音は本当に凄まじく、1996年の軽快で豊かなサウンドとは一変して
コンピュータのスラップベースは人間では不可能な動きに加えてズシンと来る低音
そして彼らのアレンジの特徴ともいえるオーケストラルヒットの音や
デジタルドラムのハイハットの高音など大迫力のサウンドになっています


今回使用したCD



それではこのCDの波形がどうなっているか見てみます



「LOVE REVOLUTION」


結構な海苔具合です
音量メーターを見るとわかりますがサビのあたりでピークを連発します
音の感じは全体的にシャカシャカしたような感じです
1996年にこのように波形を意識するマスタリング概念はあまりなかったと思いますが
何か他のアーティストと違う形でリリースしようと試みた結果なのではないでしょうか?
ちなみにTWO-MIXが発売したWHITE REFLECTIONはアニメ新機動戦記ガンダムWのテーマソングになって
CDバブル絶頂期にも関わらずオリコンで上位に入るほど売れました(総売上約40万枚)

この時TWO-MIXという名前がみんなに深く刻まれた訳ですが
1996年のこのアルバムを皮切りにシングルCDでも音量をを意識した録音がされているように思えます


「RHYTHM EMOTIONpure」

こちらはヒットしたRHYTHM EMOTIONのピアノバラードバージョンです
よく波形を見るとリミッターが効いてバサっとカットされています
このアルバムでは高音域がまるでラジオみたいに弾けたような印象を受けます
そして他の曲とは異なってなぜかピークより控えめな部分で切られています
当時はコンピュータの性能が今と比べて非常に悪く、コンプレッサー、リバーブ、リミッターなど
アナログ機器を主に使っていました
そんな時代にDTMに使えるコンピュータはマッキントッシュの一択です
なぜかマッキントッシュ用にしかDTMソフトシンセやその他のソフトが開発されていなかったようです
当時のCDへプレスする際に録音するメディアはPCM-3348という見た目はオープンリールテープの形をした
デジタルメディアが主流でした


次にご覧いただきたいのは奥井雅美の「朱-aka-」(1998年)の波形


絶妙でとても理想的な波形です
ギザギザの上がり下がりの幅がこのくらいの形が一番音質として完成されていたような気がします
またプロデューサーの矢吹俊郎氏も90年代からコンピュータサウンドを多用するミュージシャンでしたが
波形から見て1998年の時点では音圧を意識した音楽製作はしていなかったようです

1998年では小室哲哉がとにかく流行っていて、どこに行っても小室哲哉の曲が街では聞こえてくるし
彼が得意としたコンピュータのサウンドも人気でしたが
小室哲哉は1996年はもちろん、1998年でもTWO-MIXまでの音量でCDをリリースしていません

もしかしたらTWO-MIXが、アニソン界が音圧戦争の引き金になったのではないでしょうか?
突如40万枚を売り上げてポップスのランキングに現れた彼らのサウンドを耳にしたサウンドエンジニアが
彼らに影響されて試験的に迫力を意識したサウンドに着目し始めたと考えるのはおかしくありません
DTMの知識がなく、音楽を聴いているお客さんとして客観視すると子供までいますから
最高の音質よりも音の迫力の方が目立ちやすいので、迫力も求め始めたのではないでしょうか?


もう一つ面白い波形をお見せします



sweet velvet「I JUST FEEL SO LOVE AGAIN〜そばにいるだけで〜」(1999年)



最近の海苔の形とは少し違います
でも楽曲を聞いてみると奥井雅美の朱と1年しか差がありませんがこちらは随分音が大きく
全体のパートが前面に飛び出しているような印象の音がします
赤線を引いた0db付近部分がハサミでチョキンと切ったような状態になっています
最近の海苔はよく見るとギザギザが残ってます

喜多村英梨「Be Starers」(2011年)


四角くなろうとするようにある程度の場所で収まってギザギザしています
このギザギザ成分はコンプレッサーがかかって本来0dbより上に行ってしまう部分を圧縮している証拠なのですが
スッパリ切れているということはリミッターで強引にカットしたものでしょう
やはりアナログ機器がメインだった90年代に上記のような緻密な波形を作り出すことは難しかったのかもしれません

これは今回紹介した4つの楽曲を縦に並べたもの


聞き比べてみて、大きくギザギザが振れている奥井雅美の朱のほうが各楽器パートでこの楽器は後ろに、この楽器は前のほうで聞こえる
そんな印象を受けませんか?これが音楽用語でいう奥行を意味する「定位」なのですが
海苔になればなるほどこの定位を表すことが難しいとされています